On the yellow guardrail

正字正かなユーザー刑部しきみの清く正しいつつましやかなブログ

「」

……今にも死にそうな目をしているな。大丈夫じゃないのは知っている。だが、死にもしないのも知っている。
私が見えるか? まぁ、見えなくとも聞こえなくても、別にいい。判れば、それでいい。
灰色の指先。出口のない無限のループ。いないものとしての、自己。アルミの浮かぶ涙。そのうち終わるぞ。実は、終わりの日は意外と近い。お前は僅かな現金と引換に、職を失い、半ば自発的に、強制的に、精神科へ連れて行かれる。
お前はあの建物を知っているだろう? そう、あそこだ。お前はあの立派な精神病院に、連れていかれるんだ。お前ももう、自分の精神、あるいは脳の何処かが捻れきって居るのを判っている筈だ。それもかなり昔から。お前は例の男に比べれば遥かに少量の抗精神病薬を処方され、「家が燃えている」あるいは「両親が死んでしまった」という、まるでその場にいるかのような熱を持つ幻視も、突然の訳の分からない大声も、まぁ、大体消える。知覚できなくなるのか、本当の妄想なのか、そんな事はどうでもいい。結果が全てだ。
ハロワの求人にお前の求める仕事はないし、お前を必要とする仕事もない。第一、もう仕事なんかしたくないだろう。
だが、少し面白い約半年間の暇つぶしが待っている。半年ほどあの懐かしい場所に帰れるんだ。そこには旧友も偶然か必然か、立場は違えど、居るんだ。少しは面白いか? あまり面白くないな。まぁ、所詮は暇つぶしだ。これは余生だ。お前も私も、静かに暮らしたい。誰からも遠ざかり、静かに。判っている。だが、お前は何故かわざわざ騒々しい事に巻き込まれる羽目になる。かなりいい暇つぶしだから、人の誘いは断るな。静かに暮らす事はそのうち叶う予定だ。
あと、そうだ、好きなアーティストが増える。目の力の強い、真っ直ぐな瞳をした、母と同い年位の男だ。吃驚したか? しないだろうな。お前は吃驚はしない。知っている。それから、なるべく沢山の本を読むように。無職時代は意外と忙しいが、図書館は快適だぞ。お前がかつて住んでいた場所の図書館にも行くと良い。
他に書き残す事があっただろうか。まあ、特に無いな。お前は多分、どうとでも生きられるし、どうとでも死ねる人間だ。
生きるのも自由だし、いっそ死んでもいい。
選べ。選んでいいぞ。
別にお前の選択で私が消えても、私はちっとも構わない。
さて――どうする?